琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート338 ごちゃまぜミニ探検20 2015年度編

2015.1.25-11.19
宮城県塩釜市、仙台市、福島県いわき市、北海道札幌市、白糠町、旭川市、函館市、小樽市、東京都台東区、中央区、渋谷区、愛知県岡崎市、山形県山形市


探検レポート338

2015年は28回の探検と、ここにまとめる15回のミニ探検を行うことができた。
前年の2014年は入院手術によるリタイヤもあって、12回の探検と8回のミニ探検という低スコアになってしまったが、15年度はエンジン全開で一年を通して活動をした年となった。
ミニ探検と言えども印象に残った探検は多くある。1月から2月にかけて、"にわか島フェチ"となってしまい、宮城県の松島湾に浮かぶ浦戸諸島を旅した。
久しぶりに一眼デジカメを手に、島のあちこちを歩き回って、気に入った風景にレンズを向けた。
浦戸諸島には人が住む島の代表として、寒風沢島、野々島、そして浦戸桂島などがあるが、中でも浦戸桂島は強く印象に残っている。
桂島は人口300人、周囲6.8キロの小さな島で、塩釜港からはフェリーで約23分の距離。フェリー桟橋で降りた数人以外は誰にも会うことなく、潮の香りを嗅ぎながら歩き出す。
何の目的もなく、のんびりとぶらぶら歩く…“島フェチ”にはたまらない魅力だ。 島のほぼ中央には、平成17年に廃校になった旧浦戸第二小学校があって、校庭には仮設住宅が並び、破損したまま残された二宮金次郎の像が印象的だった。

探検レポート338

浜から学校までの道すがら、集落があったとされる海べりに、2011年の東日本大震災で津波に襲われた家屋の土台がいくつも残っている姿を目の当たりにした。
かつて、そこに人が住んでいたとは到底思えない荒涼とした風景だった。集落を襲った津波はあっという間に、生活のすべてを根こそぎ持って行ってしまったのだろうか。あまりにも無残な現実がそこにあった。
島をぐるりと回って石浜の港に出ると、ここも津波の被害を受けたようで、家の土台だけが残った港には歯抜けになった民家が並んでいる風景があった。震災の傷跡はどんなところにも残っており、決して消すことができない現実を感じた。
あまりにも辛い風景を見せられて、ホーロー看板を探すことは半ば諦めていたが、フェリー桟橋がある集落に戻ると、かつては商店だったと思われる民家の庭先に「味の素」の看板が、そして、そこからしばらく歩いた古びた民家の玄関先には、あまり出遭いたくない看板の代表格「遺族の家」があった。
震災と戦争、どちらも人々を不幸にし、その生活を変えてしまう出来事。その痕跡を人に出会うこともない静かな島で触れることができた貴重な体験となった。
もう一つ、8月に岐阜の自宅に帰省したときに訪ねた、愛知県岡崎市の味噌蔵も面白かった。八丁味噌で全国ブランドとなった岡崎市には有名なカクキューがあるが、1337年創業の「まるや八丁味噌」は、「カクキュー」と並んで老舗中の老舗。
ちょうど帰省していた岡崎市に住む長女を送っていくついでに、親子三人で味噌蔵見学をすることにした。

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江戸時代後期に作られた味噌蔵の中に入ると、大きな桶がずらりと並び、味噌の甘い匂いが充満していた。
八丁味噌は大豆と塩だけで造るということで、仕込みには6尺の大桶に約3トンの石をピラミッド状に積み上げ、二年間の天然醸造を行うという。 水分を少なく、じっくり時間をかけて熟成した八丁味噌は、大豆の旨みがギュッと詰まり、深い味わいの味噌となるということだった。
蔵の中には味噌の看板と工場でよく見かける「無断入場を禁ず」の標語看板が残っていた。期待していなかっただけにうれしい出会いだった。
蔵から外に出ると、空になった桶が並んでいた。底には桶が作られた年代が入っており、古いものでは大正時代のものもあるということだった。
売店で八丁味噌を買い、帰宅後にカミさんにお願いしてアサリの味噌汁を作ってもらった。赤だし味噌のまろやかさと違って、少し癖のある苦味がなんともいえない。
一口すすって、思わず「旨い!!」と言葉が出た。 秋を感じた、8月の終わりだった。
(2016.7.10記)
※画像上/宮城県松島湾に浮かぶ寒風沢島は塩竃港からフェリーで約45分、人口170人、周囲13.5キロの島。宮城県塩釜市。 江戸時代初期の築港で、伊達藩海運の要となり、江戸廻米の港として栄えたという。島には歴史的な遺物がたくさんあり、中でも、白い粉を塗って祈願すると、美しい子が授かるといわれる「化粧地蔵」は見どころ。
※画像中/松島湾に浮かぶ浦戸桂島の風景。震災による津波の痕が島のあちこちに残る。宮城県塩釜市。
※画像下/1337年創業の老舗の味噌蔵「まるや八丁味噌」。蔵の中に入るとピラミッドのように石が積まれた味噌樽が並ぶ。愛知県岡崎市。



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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