琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート341 春の風に触れた、南三陸~遠野日帰り探検

2016.3.27
宮城県石巻市~登米市~南三陸町~気仙沼市~岩手県住田町~遠野市


探検レポート341

仙台に赴任して三年が経った。あっという間に月日が流れたように思う。
その間に入院手術も経験し、「寒い、寒い」と泣き言をいってた軟弱な身体もいつのまにか北国の環境に順応し、今ではすっかり東北人になったような気がする。
三年間で行ったホーロー探検は70回を超えたが、その数字が示している通り、東北と北海道のほぼ津々浦々まで足跡を残すことができた。
地図を開いてみると、どのページもこれまでに走破したルートがマーキングで塗りつぶされ、余程の辺鄙な山中にある道でないかぎり、その隙間もなくなった。
しかし、そんな辺鄙な道こそ、お宝が潜んでいる可能性を秘めているからうれしい。このところの机上探検の武器となっているGoogleストリートビューを検索すると、(あるではないか、お宝が!!)…。
前置きが長くなったが、今回はそんな辺鄙なルートで見つけた看板探しの旅である。
仙台から岩手県の遠野まで直線で約200キロ。今日のゴールの距離を考えるとのんびりもしていられない。石巻までは三陸動車道を利用し、石巻南インターから北上川に沿って北上する。

探検レポート341

最初のターゲットは金鳥とキンチョールのペアが貼られた屋敷だが、目的地に着いてみると金鳥の看板はすでに消失しており、くっきりと白い痕跡だけが残っていた。
東北地方には金鳥ペアは少ないだけに、ここは貴重な物件だったが一歩遅かったようだ。
石巻市内に戻り、今度は北上川左岸に沿って走る。古い農村集落が残る北境までは以前の探検で訪ねているが、そこから先は未踏のルートだ。
ビューでは確認できなかったが、小さな集落が点在し、道草をしながら集落に続く狭い道に分け入っていく。
思った通り看板の姿があった。集会所のような建物の壁に付いていた『ムヒ』は、組看板ではなく一体型のタイプである。『虫さされかゆみ』の看板と対で貼られることも多いが、欠落した痕跡もないことから、この看板はおそらく単体で貼られたものと思われる。
更に同じ集落で内科医院がスポンサーになっているローカル看板を発見。東北地方には珍しいローカル看板であるが、帰宅してから調べてみると、看板に表示された石巻駅前にはこの医院はすでに存在していないことが分かった。
今となってはいつの時代のものか分からないが、この医院が現存していたら当時のことを訊けただけに残念である。
石巻市を後に南三陸町に向かう。2011年の東日本大震災による津波で大きな被害を受けた町であるが、志津川湾を望む風景にはすでに町の痕跡はなく、ハンドルを握って国道を進むと、土煙を巻きながらひっきりなしに復興工事の車両が往来している状況であった。
震災から5年が経過したというのに、復興はまだまだ遠い先のようだった。
さて、そんな南三陸町で見つけた看板屋敷だが、2013年のストリートビューで確認すると、大きな木造の建物の壁面に『広貫堂』の組看板と『コドモわた』。そしてオロナイン軟膏までが貼られているという素晴らしいロケーション。
しかし、看板のほとんどが欠落し、残っているのは『貫』と『た』のみ。オロナイン軟膏もなくなっていた。

探検レポート341

一歩遅かったようである。少なくとも僕が東北に赴任した2013年に行動していれば、この屋敷のパフォーマンスを観ることができたと思うと残念でならない。
ホーロー看板の消失は、坂道を転げるように加速度がついてしまったのだろうか。思い返してみると、探検を初めた2005年当初は、一日ハンドルを握ると50枚くらいは簡単に見つかる状況だった。
昔のことを振り返っても仕方がないが、もっと早く探検を始めていればより多くの看板屋敷や商店を記録できたと思うとやるせない気持ちにもなる。
さて、南三陸町から北上し、県境を越えて向かったのが、最後の目的地である遠野の看板商店。この店もかなり辺鄙なロケーションにあるが、うれしいことにストリートビューで確認した看板はすべて残っており、何よりも店の外観が素晴らしい。
店の前に立つと、時代があっという間に昭和30年代に引き戻されるような気がしたくらいである。
看板は『サッポロビール』と『養命酒』、そしてベンチに貼られた牛乳看板の3枚だが、往年はもっとたくさんの看板が貼られていたのだろう。
ともあれ、本日最後のゴールが昭和の匂いをぷんぷんさせる商店だったこと、そして、まだ肌寒い春の風を受けて遊べたことに感謝である。
(2016.9.19記)
※画像上/北上川河口付近には肥沃な田園地帯が広がる。宮城県石巻市。
※画像中/長屋門を構えた古い家屋が並ぶ集落。宮城県石巻市三輪田。
※画像下/雪を抱いた早池峰山(1917メートル)を望む。遠野の象徴的な山である。岩手県遠野市。



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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