琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート344 五月の風に吹かれて、ゆらりゆらり道南を行く

2016.5.8-9
北海道北斗市~江差町~八雲町~せたな町~今金町~共和町~八雲町~森町~函館市


探検レポート344

2008年から全道をくまなく回ったホーロー探検もいよいよ終盤である。
唯一の空白地帯となっている江差から瀬棚、そして岩内エリアであるが、"ホーローの神"ははたして降臨してくれるだろうか。
アプローチは新幹線で函館北斗駅へ。仙台からわずか2時間間52分の距離だ。今年の3月に開業した北海道新幹線であるが、思い返してみると、初めて函館を訪ねた1979年は青函連絡船で津軽海峡を渡ったし、出張で足繁く通っているここ数年は、空路で函館空港に入ったり、青森からJR在来線で青函トンネルを潜った。
こうしてみると改めて時代が変わっていくことを感じる。名古屋から二日をかけて夜行電車と青函連絡船を乗り継いだ長旅が、40年近い時を経て、まさか新幹線に変わるとは思ってもみなかった。
さて、函館北斗駅で調達したレンタカーは国道227号線を北上するが、道内では大量に貼られている『お茶は宇治園』しか見つからない。もっとも、桜が満開の名所に道草しているようではのっけからホーロー探検に集中しているともいえないが。
江差に入り、重厚で巨大な木造商家や白壁の蔵が建ち並ぶ旧街道を走るが、看板の姿を見ることなく通り過ぎてしまう。"海沿いの町にはホーロー看板の姿なし"のジンクスそのままである。

探検レポート344

初日の行程は函館北斗駅をスタート。江差から国道229号線をひたすら北上し、瀬棚までの約150キロなので探検の距離としては短いが、看板に出会うこともないと、ひたすらハンドルを握るのが辛くなってくる。
このまま空振りで終わってしまうのか…という不安がつきまとうなか、八雲町に入りようやくゲットしたのが『月星カラー』と『コドモわた』。
コドモわたは『た』の文字が欠落していたが、この看板が貼られた木造の民家は遠くから見てもなかなかインパクトがある建物だった。 結局、初日の探検はほとんど収穫がないまませたな町まで来てしまった。
『三本杉岩』という海に三本の杉が立っているように見える奇岩を背景にした民宿に投宿。 お客はどうやら私一人のようで、何度も玄関ドアから声をかけ、ようやくご主人?のおばあちゃんが出迎えてくれた。
ところがこのおばあちゃん、食事の支度をすると「これから町まで用事に出かけるから。お風呂も沸いているからね」といって出て行ってしまった。
結局この時点で私は留守番となってしまったみたいだ。やたらと広い食堂で、サービスの瓶ビールの栓を抜き、冷めた味噌汁を卓上コンロで温め、ご飯をジャーからよそって、食事を一人で済ませることになった。
更に風呂に入ってもバスタオルがどこにあるか分からず焦ってしまった。 それにしても不用心である。これまでいろんな宿に泊まってきたが、これほどいい加減な宿も記憶にない。逆に言えばそれだけ大らかなんだろう。

探検レポート344

翌朝、おばあちゃんに見送られて出発。期待した食事は残念だったが、波の音が子守唄代わりに聞こえて、そんな意味では悪くはなかった。
二日目の行程は今金町に道草し、国道229号線を海岸線に沿って北上、岩内町を探検。そこから蘭越、長万部経由で函館に戻るという長丁場である。
まずは今金町であるが、ここには地酒看板が貼られた酒屋の情報があり、今回の探検では大いに期待するスポットだったが、結果は空振り。すでに時遅しか、看板が剥がされた跡が白く残っていた。
再び海まで戻り、奇岩が連なる海岸線を岩内町を目指してひたすら北上する。民宿のおばあちゃんも言っていたが、たしかに素晴らしい景色だった。
岩内町は古びた映画館もあって、どこか昭和の雰囲気が漂う町。ホーロー看板もきっと似合うに違いないと、碁盤の目のようになった町の中心部を走り回るが、まったく見つけることができなかった。
ホーロー探検には残念だったが、こうしたレトロな雰囲気をもった町を訪ねることができただけでも貴重な経験である。
さて、"一人探検隊"のクルマは共和町を目指す。国富の集落には旧国鉄の岩内線の廃線跡があり、線路があったと思われるたんぽぽが咲く道を辿ると、看板をびっしりと貼った小屋が目に飛び込んできた。

探検レポート344

看板は金鳥ペアを始め、コドモわたなど、全部で5枚。オヤコわたの組看板も欠落がなく残っていた。 おそらく往年の岩内線の車窓からはよく見えていたのだろう。
農地にぽつんと建つ小屋は、五月の風に吹かれて孤高の雰囲気を醸していた。これまで道内の看板屋敷を数多くカメラに収めてきたが、この屋敷のパフォーマンスは素晴らしい。
季節を変えて何度も訪ねたいくらいだが、おそらくこれが最初で最後になるだろうと思いつつ、カメラのシャッターを切りまくった。
道南の旅もこれで終わりである。後はひたすら南下して函館を目指す長距離ドライブだ。倶知安から南はすでにトレースしているので、雪を抱いた後方羊蹄山(1898メートル)やニセコアンヌプリ(1308メートル)のまろやかな稜線を横目で見ながら走った。
風薫る5月、うららかな春の旅である。のんびりとハンドルを握って、函館にゴールした。
湯の川温泉にある銭湯『長生湯』では脱衣場にあるホーロー看板を撮影し、熱湯のようなお湯に浸かり、道南の旅を締めくくることができた。
桜、海、雪山、薫風、そして温泉…魅力的なキーワードを実体験した忘れがたい一人旅になったことがうれしい。
(2016.12.11記)
※画像上/せたな町のパワースポット、三本杉岩。民宿の窓を開けると、まるで番兵のように目の前に立ちふさがっていた。
※画像中/花びらが舞う桜並木。最後の桜前線を目に焼き付けた。
※画像中/重厚な商家や蔵が建ち並ぶ江差の町。藩政時代からの交通の要所だった。
※画像下/島牧村の海岸線を走ると、雪を抱いた狩場山(1519㍍)の稜線が迫っていた。
※宿泊/『民宿○○館』一泊二食6000円。三本杉岩を背景に建つ民宿。波の音を聞きながら眠れる。海の民宿なので期待したが、泊り客が私一人だったことが災いしたのか、品数の割に天ぷらや煮物も冷えていて食事は今ひとつ。宿名は出しません。☆★★★★



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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