ホーローの旅
レポート348 2016年夏、関西ホーロー紀行 前編
2016.8.18
京都府綾部市
元キャンデーズのメンバーである伊藤蘭がマドンナ役で出ている寅さん映画『男はつらいよ~寅次郎かもめ歌』(1980年12月松竹)のDVDを観ていたら、四国の町並みを背景にして寅さんが歩くシーンで、ほんの一瞬だが『編機はアルス』と『ダイヤ学生服』の2枚のホーロー看板が貼られた家屋が映っていた。
セピア色に輝く昭和の風景をキャッチした見事な演出、そして寅さんはすっぽりとそこに収まっていた。 封切りから30数年が経ち、かつてはどこにでもあったホーロー看板が貼られたありふれた風景もほとんど見ることができなくなった。
そんな風景を探しながら全国を回っている自分は、傍から見れば思いっきり"変なおじさん"なのであるが、未来に向かう旅よりも過去を遡る旅のほうが自分の性に合っているから仕方がない。
前置きが長くなったが、そんなことを改めて反芻しながらハンドルを握る、関西への旅が始まった。
旅の初日は綾部市での探険に絞り、市内にホテルを確保した。狙いはマツダランプがスポンサーになっている町名看板である。
2006年6月の探検では3枚を見つけただけにとどまっている。 以来ずっと気になったまま時が過ぎてしまった。そんな中、他サイトで綾部の町名看板の情報がアップされ、綾部市内の広範囲に町名看板が貼られていることを知り、何としてもカメラに収めたくなったのが今回の目的なのだ。
日本列島に居座った太平洋高気圧は、お盆を過ぎたというのに強烈な紫外線でジリジリと肌を焦がしてくる。東北の涼しい気候に慣れた体には、関西の暑さが身に沁みる。
全国でもここだけにしかないマツダランプの町名看板が貼られたエリアは綾部市内の四方に散っており、かつては町内の多くに貼られていたことが推測できる。
Googleストリートビューで事前に確認していた看板以外にも見つけることができたが、家屋の二階の軒下や消火栓の蔭など厳しいロケーションに残っていた。
この日見つけた町名看板は15枚。情報によればまだ数枚の発見例があり、探しきることができなかったのが残念である。 そして、町名看板以外の収穫は火の用心の看板。広告は『かぜにスパーク』と『疲れにネオ肝精』。
どちらも火の用心の字体は同じで、2006年に長野県飯田市で見つけたスパークバージョンも同じ字体だった。ささいなことだが、こうした一致を確認できただけでもホーロー探検冥利に尽きるというもの。
まぁ、"変なおじさん"の遊びの真骨頂ともいえそうだ。
初日の最後は、JR山陰本線沿いにある看板屋敷。2006年以来の再訪だが、10年の時を経て同じ状態で残っていたことに感動した。
『明城ポマード』と『デンソー洗濯機』は、マツダランプの町名看板(綾部バージョン)と同じく、おそらくここにしかない看板だろうと思う。 『デンソー洗濯機』は、自動車部品メーカーとして有名な日本電装(現・デンソー)が1950年(昭和25年)に発売した洗濯機で、当時はトップシェアを誇っていたそうだ。
家電製品のホーロー看板もめっきり少なくなったが、こうして現役で見ることができて、うれしい初日の締めくくりとなった。
夕暮れが迫る綾部市内のスーパーで買い出しをして、ビジネスホテルに投宿。
ペットボトルを何本も空にするほど暑さがこたえた一日だったが、最近になく数多くの稀有な看板の姿をカメラに収めることができ、冷えた缶ビールも一段と美味しく感じた一日の終わりだった。
(つづく)
(2017.10.11記)
※画像上/国道から脇道にそれると小さな集落が。マツダランプが広告された町名看板の姿があった。(綾部市)
※画像中/福井県敦賀から舞鶴自動車道を南下し、綾部に入ると目が覚めるような田園風景が広がった。
※画像下/典型的な山荘集落。くねくねと登っていくと、屋根が道よりも低くなった(綾部市)
※宿泊/『アールイン綾部』素泊まり6000円。JR綾部駅至近にあるビジネスホテル。近くにはコンビニもないので、立地は不便。競争もないので価格設定は高いと思う。☆☆★★★