ホーローの旅
レポート350 黄金色の山形路を行く
2016.9.24
山形県山形市~南陽市~川西町~飯豊町~高畠町~上山市~山形市
東北に赴任して5年目。仙台を起点に足繁く通った山形県への探検もそろそろ行くところがなくなってきた。
残すは国道や県道といった幹線道路に沿った脇道から、更に枝分かれした生活道路にある小さな集落である。Googleストリートビューはこんな道でさえフォローする優れものであるが、言うまでもなく、こればかりに頼っていてはホーロー探検の面白味が半減するというもの。
今回は"ガチンコ勝負"である。ストリートビューは封印して、気ままに走って、気ままに探すホーロー旅を実行することにした。 ちょうど季節も秋。そろそろ刈入れが始まる黄金色の稲穂の輝きが見れれば、最高の旅になるだろう。
仙台駅前でレンタカーを確保して、まず向かったのが山形市。気ままに走るといっても、適当に走るわけではなく、これまでトレースしていないエリアや生活道を狙いながら、南陽市に向かって南下していく。
古びた木造の家屋が並ぶ一角で見つけたのが火の用心の看板。木材が積まれた蔵の壁面にチラリと見えていた。ほとんどの人が気づかないであろう、わずかな隙間に反応した我が目の鋭さに感心しながら、幸先の良いスタートを切った。
この看板は山形バージョンというくらい、山形県に多く残っているタイプ。「火」のロゴがデフォルメされ、いかにも火事を連想するデザインである。
1枚目のゲットが思いのほか早かったことに気を良くして集落を離れ、鼻歌混じりにハンドルを握りながら里山に沿った生活道に入っていく。思いがけないところに水車が回るそば屋があったり、お地蔵さまが静かにたたずんでいたり…ススキが揺れる秋の里山風景が上質な映画のシーンを見るかのように広がっていく。
そんな中で見つけたのがタム軟膏の看板。いつもそうだが、クスリの看板を見つけると決まったように心が躍る。"ホーローの華"と勝手に呼んでいるが、多彩なデザインや色が可憐な花を連想させてくれる。
タム軟膏は山形県では比較的ポビューラ―なクスリ看板でこれまで何枚も見つけているが、この看板は、重ねて貼られた錆びたブリキの看板に少し隠れているもの、保存状態も良く存在感もあった。
さて、ここからが本番。今日の探検で一番気になる目的地の、山形鉄道宮内駅に向かって走っていく。
イガ栗が転がる林道を抜けて山間の集落を訪ねると、黄金バットのイラストが描かれた錆びたオロナミンC看板が貼られた商店や、インパクトのあるコカ・コーラ看板が貼られた大きな三角屋根の商店等、がぜん賑やかになってきた。
そして迎えたのが宮内駅に隣り合った民家。ここの見どころは何といっても金鳥ペアである。駅の並びにあるというロケーションも素晴らしいがそのインパクトも半端ではない。
ここから通学通勤していた人々の心象風景には、おそらく仲良く並ぶ金鳥の看板がきっと刷り込まれているに違いない。
昭和の匂いを色濃く残す駅とホーロー看板の屋敷。日本に残されたこの稀有な風景はこれまで多くの金鳥ペアの屋敷を見てきた中でも一番と言っていいくらいの素晴らしさだった。
正午を回り、宮内町で腹ごしらえとする。宮内は小さな町だがラーメン店が何軒もあり、適当に選んだ店でも十分に美味かった。
そして、そんな市街地で見つけたのがごみ収集所の看板。もえるごみともえないごみの赤と青が対で揃っており面白い。ひよっとしたら現役かと思ったが、ゴミは置いてなかった。
普段の探検ならコンビニのおにぎりやサンドイッチを片手にハンドルを握るところだが、今日はゆっくりと店で昼食をとったし、急ぐ旅でもないので、黄金色に染まった田園風景を眺めながらのんびりと走っていく。
飯豊町を軽く流し、高畠町に向かう。 高畠は過去に何度も訪ねた町だが、見落としはたくさんあり、ぼたん綿の組看板や脱穀機の初見看板など珍しいお宝をカメラに収めることができた。
今回のホーロー探検を総括すると、ストリートビューを活用せずに行ったホーロー探検だったが、〆てみたら30枚を超えるお宝を撮影することができた。
終日の曇天は残念だったが、黄金色に染まった田園や秋の気配が一層濃くなってきた里山の風景を堪能することができ、文字通り実り多き旅に仕上がった一日となったと思う。
(2018.2.13記)
※画像上/山里の風景。色づき始めた田んぼに刈り取りの準備が進む。山形県南陽市。
※画像中/林道から小さな集落を目指す。イガ栗が転がり、いかにも秋の演出をしていた。山形県飯豊町。
※画像下/すでに廃業している床屋に残ったサインボール。昭和の遺物でしょうか。山形県高畠町。