ホーローの旅
レポート356 春の北関東縦横無尽ホーロー旅 後編
2017.3.26
茨城県水戸市~那珂湊市~常陸太田市~福島県白河市
薄く立ち込めた乳白色の靄に、今日一日がすっきりしない天気になることを占いながら出発。
探検も三日目ともなると体が慣れてくるのか、それほど疲れも感じない。
まず向かったのが水戸市内に残るレトロな自転車屋。 店舗正面の壁にロケットを模ったような『サン号自転車』の巨大看板が左右2枚貼られていた。
向かって右の側壁には『自転車』の組看板。 ある意味センスがあるビジュアルだが、今の世にあってはレトロこの上もない。
市の中心部近くだというのに、これほどの看板商店が残っていたことに驚きだ。 今ではこうした風景を都市部では見ることができなくなっているだけに貴重である。
素早くカメラに収めて、ナビを水戸から那珂湊にセットする。 どんよりと曇ってはいるが、雨の心配はなさそうだ。
まだ水も張られていない田んぼが続く風景を見ながら、ひたすら走った先が那珂湊の町だった。 碁盤の目のように仕切られていた町は思った以上にこじんまりとしており、古い民家や商店があちこちに残っていた。
大都市一極集中の反動として、人の流れが変化する空洞化現象はどこでも起きている。 かつては賑やかだった駅前は廃れ、シャッター街と化す。地方にとって深刻な問題である。
人の姿をほとんど見かけないのをいいことに、気ままに走ってみるが、見つけたのは肥料の看板が一枚と、情報を得ていた町名看板のみ。 お宝の匂いがぷんぷんするだけに残念な結果になった。
さて、ここからは気分を一新して北に向かう。 常陸太田市は過去に二度訪れているが、ちょうどこの日は町を挙げての『ひなまつり』のイベントが行われていた。
古い町並みに軒を連ねる商店や商家の土間や店先に煌びやかなひな人形が飾られており、道行く人たちが立ち止まっては見入っていた。
再訪だけあってお宝のほうはさっぱりで、撮り残していた『婦人生活』の看板をゲットした他は新規発見もなく、ひな人形はもちろん、路地の風景や居合わせた野良猫にカメラを向けてこの町を後にした。
常陸太田からは郡山に向けてひたすら北上。 朝の占いはどうやら当たったようで、弱い雨となった。 小さな集落で見つけた味噌の吊り看板と、酒蔵にあった地酒看板を除くとこれといった収穫もないまま福島県に入ったが、県境を越えてもお宝の姿を見ることがなく、ひたすらハンドルを握り続けるロードとなった。
雨は降ったり止んだりを繰り返し、空は一段と重く垂れこめる始末。 振り返ってみると、栃木県の山中で遭遇した看板屋敷に歓喜したつい二日前が、遠い日の出来事に感じる。
年を取るということは、時間との競争なのだろうか。 あっという間に時間は過ぎ、記憶の断片となって風化していく。
私のホーローの旅は、時間との闘いである。 “看板の命短し”…残された時間はわずかでしかない。(おわり)
(2019.4.14記)
※画像上/ちょうどこの日は町をあげてのひな祭りが開催されていた。立派な商家に店先に陳列されていた雛壇飾り。常陸太田市
※画像中/人に慣れているのか、おとなしくカメラポーズをとっていた。常陸太田市
※画像下/常陸太田の町並みは昭和レトロをふんだんに感じる。昔ながらの商店は昭和30年代にタイムスリップしたようだ。