ホーローの旅
レポート378 春の信州ホーロー紀行①
2021.3.29
長野県上松町~塩尻市~諏訪市~茅野市~佐久穂町~佐久市
収束する気配もないコロナ禍。 しびれを切らして、信州を回るホーロー旅に出ることにした。
隣の岐阜県に住む私にとって長野は距離的にも近く身近なエリアといいたいところだが、さにあらず。 それこそ山越え谷越え、山奥にある集落などはいまだに訪ねたことがない場所がいくつもある。
ひょっとしたらまだ見ぬお宝も潜んでいるかもしれない。 そんな偶然の出会いがあればしめたもの。
桜も満開、信州の遅い春を満喫する旅が始まった。
木曽川に沿って伸びる国道19号線はこれまでにも何十回と走ったが、そんな勝手知ったる道にも見落としがあった。
何気なく目を向けた車窓に、一瞬の間をおいて目に飛び込んできた金鳥看板を捉えたのだ。
200メートルほど過ぎた路肩にクルマを止め、カメラを首から下げて歩道もない国道を真正面から疾走してくるトラックに注意しながら歩く。
国道から滑るように土手を下りた、すでに住人もない廃屋の壁に貼りついた看板を見上げた。
なぜこんなロケーションの悪い場所に貼ったのかは今となっては分からないが、金鳥とキンチョールの黄金ペアは枯れたツタが絡まりながらもしっかりと存在を主張していた。
これまで気づかなかった看板だが、幸先の良いスタートである。
これから始まる4日間の旅の成功を約束してくれるに違いない。
今日の行程は佐久までなので時間にも余裕があり、たっぷりと道草しながらのホーロー探検を楽しむことができそうだ。
山に挟まれた木曽路を抜け塩尻に入ると、徐々に視界が開け冬枯れのブドウ畑が広がった。
雪を抱いた穂高岳の前衛の山や遠くには常念岳も見えている。
岡谷から諏訪にかけての集落は、過去に何度も探検をしているので新たなホーロー看板を見つけることはできなかったが、情報を得て撮影できた町名看板があまりにもマニアックな一角に潜んでいたことに驚いた。
なるほど、壊れかけた家屋の隙間に貼られた看板だけにすんなりとは見つからないわけだ。
諏訪から茅野にかけては酒蔵や醤油の蔵元も多く残っており、店先を覗くのも楽しみの一つである。
その中の一軒で思わず店主一押しの薄口醤油と信州味噌を購入したが、ついでに確認した(というか、こっちが本題)ホーロー看板の有無については、「昔はあったんだけどねぇ」の一言だった。
さて、信州の春をなでるように走るクルマは清里から野辺山、そしてJR小海線に沿って進む。
眼前に飛び込むのは、否応なしに八ヶ岳の雄姿。 山に狂っていた頃登った阿弥陀岳や、その奥に主峰の赤岳が威圧的にそびえるのがくっきりと見えた。
JR野辺山駅は日本最高海抜地点にある駅舎で、いつかは訪ねたいと少年時代からずっと憧れていた駅である。
月日が経ち、振り返ると何度も訪ねており、特に感慨にふけるまでなく駅前広場でクルマを止め、缶コーヒーを飲みながらぼんやりと休憩した。
小海線沿いの集落で看板の姿を何枚かカメラに収め、佐久穂町にある安政五年(1858年)創業の黒澤酒造に立ち寄った。
この蔵にはちょっとした資料室が併設されており、蔵で実際に使われた酒造りの道具や蔵の歴史を物語る古い写真などが展示してあった。
その中には代表銘柄の『井筒長』の看板もあり、店主に許可を貰って撮影させていただいた。
就業間際の日が暮れかけたあわただしい時間帯だったが、邪険にもされずことのほか親切に対応してもらいありがたかった。
さて、桜は満開だというのに、さすがに信州である。 日が沈むとキリリとした冷気が肌をさす。
冷えた体を癒すのは、もちろんキンキンに冷えたビール(笑)。
宿に入る手前でちょうど見つけたイオンでビールとお惣菜を調達し、充実の初日が終わった。 (つづく)
(2022.4.18記)
※画像上/雪を抱いた山と倒壊しかけた民家を背景にJR小海線の電車がゆっくりと走っていった。
※画像中/野辺山あたりからはどこからでも雪解けが進む雄大な八ヶ岳が目に入った。
※画像中/佐久町にある老舗の酒蔵、黒澤酒造が建つ旧街道。
※画像下/緩く、長く続く坂道を登った集落で見つけたクスリの看板。まだ残っていたことが嬉しい。
※宿泊/東横イン佐久平浅間口 朝食付6400円。イオンもすぐ近くにあり便利だが、競合があまりないエリアのため東横インとしては少し高いプライス。☆☆☆★★