ホーローの旅
レポート379 春の信州ホーロー紀行②
2021.3.30
長野県佐久市~小諸市~東御市~上田市~千曲市
東横インではいつもならバイキングの朝食が、コロナ禍を反映してかパック詰めのおにぎり弁当に代わっていた。
抜けるような群青の空が広がる景色を眺めながら朝食を食べ、ゆっくりと出発。
今回の探検は投稿者のとらのしっぽさんからいただいた情報をフル活用している。
彼が送ってくれたリストは詳細で、よほどの方向音痴でない限り迷うことなく看板の前に立つことができる。 もつべきものはホーロー仲間。感謝しかない。
過去にも何度か訪ねているが、佐久市内には看板が貼られた酒蔵が多く残っている。
盗難防止もあるのか、造っている銘柄と一緒にショーウィンドウに並んでいる看板もあった。
看板の前に立ちカメラを向けると、何やら怪しい男とでも写ったのか、いぶかしげに見ている蔵の従業員の視線を感じた。
本来なら併設された販売所で四合瓶でも購入すれば済むところだが、心苦しいが先を急ぐ旅なのでここは撮り逃げとした。
JR小海線に沿って北上すると、小さい規模ながら看板屋敷があった。 トヨタミシンと旭ツバメ学生服が貼られた小屋は跨線橋から望遠できるが、ロケーションが悪くカメラに収めることができない。
集落を大きく迂回して、滑りそうな草付きの急な斜面を転げるように下った空地の隙間から、シャッターを押した。
ふつうに考えればよくぞこんな場所に看板を貼ったものだと感心もしたが、おそらく車窓からはばっちり見えるに違いない。
更に線路を挟んで反対側にもトーア毛糸と菅公が貼られた民家があり、これも道路からは見えないロケーションにあり、電車の乗客のためだけに貼られたものだった。
午後を回り、小諸市から上田市に入ると撮影ラッシュの様相になった。
銘柄『瀧の音』を造る瀧澤酒造さんには蔵の玄関口の狭いスペースに看板が立てかけてあり、声をかけるとご主人の奥様が出てきて、看板をわざわざ外に持ち出し撮影させてもらった。
また、事務所内にキッコーサカトミ醤油とサクラコメ信州味噌の看板が貼られた明治5年創業の酒富醸造さんも奥様が対応してくださり、現在は醤油を造っていないことや上田の酒蔵や醤油蔵のかつての賑わいの話を聞くことができた。
上田を後にし、遠くに聖高原の稜線が連なる姥捨から千曲市街を目指すと、可憐な薄紅色の花が揺れるあんず畑が広がった。
急こう配の坂の途中にクルマを止め、思わぬ絶景にシャッターを押しまくるが、あっという間にまとわりつくような薄い霧に包まれてしまい、まともな写真は一枚も撮ることができなかった。
姥捨から北国西街道が通る宿場・桑原宿の近くには1689年(元禄2)創業の長野銘醸さんがあり、オバステ正宗という銘柄を造っている。
長野県内でもっとも歴史がある酒蔵として知られており、今回の探検でぜひ訪ねたかった蔵のひとつだ。
ここでは販売所にあるホーロー看板を撮影することができたし、なにより女将さんから蔵の歴史を聞き、江戸時代末期に建てられた酒蔵を見学させていただいたことが嬉しかった。
お礼にオバステ正宗の四合瓶を購入し、帰宅してからチビチビと晩酌を楽しんでいる。
夕刻が近づくとあれほど青かった空がどんよりと曇り、今にも落ちてきそうな様相となった。
しなの鉄道沿いにある看板屋敷を撮影して、遅咲きの桜が散る千曲市内を抜け戸倉上山田温泉へ。
温泉設備があるビジネスホテルに投宿。 貸し切り状態の大浴場で思いっきり脚を伸ばす。
体がじわじわと弛緩し、今にも溶けていきそうだ。
短い移動距離の探検だったが、久しぶりの収穫に頬が緩み、ひとりゆっくりと湯に浸かるぜいたくな一日の終わりとなった。
(つづく)
(2022.4.28記)
※画像上/しなの鉄道沿いにある看板屋敷。ムヒの組看板は残念ながら欠落しているがインパクトがある屋敷だ。
※画像中/古い商店や家屋が軒を並べる小諸市内の目抜き通り。
※画像中/千曲市内で。遅咲きの桜が満開だった。
※画像下/オバステ正宗を造る長野銘醸。江戸時代末期に建てられた酒蔵。
※宿泊/ホテルプラトン 朝食付3600円。上山田温泉街にあるビジネスホテル。広い大浴場は貸し切り状態だった。☆☆☆★★