ホーローの旅
レポート３８０ 春の信州ホーロー紀行③
2021.3.31-4.1
長野県更埴市～須坂市～中野市～山ノ内町～飯山市～木島平村～信州新町～長野市～大町市～安曇野市～松本市～塩尻市～木曽町
上山田温泉での至福の一夜が明け、往生際が悪いのを承知でチェックアウト間際にもうひと風呂浴び、宿を出た。
信州のホーロー旅３日目は須坂の醤油醸造元から始まった。 古い町並みの一角に店を構える塩屋醸造さんは江戸中期に創業し、文化文政年間に味噌・醤油の醸造。信州に無くてはならない「塩」を生業としたのが「塩屋」のルーツである。
そんな歴史のある蔵には2種類の看板が入口の格子戸に貼られていた。
須坂市内では他にも地酒の看板等を撮影し、とらのしっぽさんの情報をたよりに山間の集落にあるクスリ看板『スキン』が貼られた土蔵へ。
昭和30年代の時間がそのまま凍結してしまったような雰囲気が濃厚に漂った蔵である。いかにもホーロー看板が貼られたロケーションが素晴らしい。
昔はこうした風景が日本中の田舎に溢れていたに違いないが、今となっては砂漠で針を探すような努力をしても見つからない。
そのまま絵葉書にでもしたいくらい貴重な風景だった。
須坂から中野にかけては過去の探検でも何度も訪ねているが、見落としもたくさんあり、ストリービューによる事前調査で確認していたジューキミシンが連貼りされた店舗や明治チョコレートのベンチ看板等を撮影することができた。
中野からは新潟県と長野県との県境に連なる妙高山の前衛の稜線を見ながらの、北を目指すドライブとなった。
道祖神が佇む高原の小さな集落の丘まで登ると、まだところどころに残雪が残っており、見渡す山々は真っ白に雪化粧していた。
麓では桜がほころび春真っ最中だというのに、ここはまだ冬の装いである。 そんな中にもホーロー看板は健気に生きていた。
久しぶりに金鳥とキンチョールの連貼りを見ることができたし、自動車学校の看板も見つけることができた。
午後を回り、コンビニのバナナを頬張りながら長野市を目指して南下し、３軒の看板商店を訪ねた。
棚田に続く道を登ったそのうちの一軒はすでに廃業していた。
いつものように全国を回ってホーロー看板を撮影しているという思いっきり自分勝手な事情を説明すると、炬燵に入っていた老夫婦は快く撮影を承諾してくれた。
昔は藁ぶきだったという青いトタン屋根の下に地酒の看板が貼られ、醤油やお茶の看板が軒下に揺れていた。
山の斜面にへばりつくように建つ酒屋はまさに限界集落の中にあったが、他には店もなく、かつては村の社交場の役割も担っていたかもしれない。
しかし廃業した今、集落の人々はいったいどこに買い物に行くのだろうか。 食料品や日用品を積んだ販売カーでも定期的に来るのだろうか。
クルマがなければどこにも行けやしない、年寄りばかりが残された集落のこれからはどうなるんだろう…などと、老婆心ながら限界集落での厳しい暮らしに思いをはせてしまった。
この日の最後は、犀川に沿って満開の山桜を見ながらハンドルを握り立ち寄った看板商店となった。
この店は事前にストリートビューで確認していたこともあり意気揚々と撮影のお願いをしたことはいいが、店主からはどうやら歓迎されていない雰囲気が伝わってきて、店内の看板を素早く撮影し早々に店を辞した。
ここはセオリー通りにお客として最初にお酒かビールでも購入して、撮影許可を取るべきだったと反省。
店主に気まずい思いをさせてしまったことを今も後悔している。
ホーロー看板を撮らせて欲しいという輩は、店側からすれば歓迎される筋合いではない。 これからもホーロー探検を続けていく以上、もっと謙虚になるべきかもしれない。
この日はここで探検を打ち切り、長野駅前のホテルに投宿。
夜は駅ナカにある『明治亭』というソースかつ丼の専門店で富士山のように盛られたかつ丼を食べた。
そういえば、茅野から野辺山へ向かう途中で雪を被った富士山がちらりと見えていたことを思い出したが、わずか３日前のことがずっと昔のように思えたのが可笑しかった。
４日目は長野市内からのんびりと国道を南下し自宅に帰還したが、地酒の蔵元と醤油醸造元でわずかに看板を撮影しただけでこれといった収穫もないまま探検を終えることになった。
ただ、10年以上前に見つけた木曽路にある小さな集落のアースペアの看板は健在で、由美かおるの脚線美も相変わらず眩しく、４日間の旅を締めくくる最後の撮影となってくれたことが嬉しかった。
（おわり）
（2022.5.19記）
※画像上／大町市から見る後立山連峰。
※画像中／須坂市の町並み。醤油醸造元や白壁の古い商家が軒を並べる。
※画像中／棚田が広がる風景。長野市郊外の山間の集落を望む。
※画像下／木曽路の小さな集落にはアースペアが残っていた。
※宿泊／コンフォートホテル長野 朝食付6200円。快適な環境での宿泊。コロナ対策も万全。☆☆☆☆★
