ホーローの旅
レポート390 春を待つ、福井ホーロー旅 前編
2023.2.27
滋賀県長浜市~福井県敦賀市~美浜町~若狭町~小浜市~おおい町~高浜町~敦賀市
日に日に近づく春。日課のウォーキングも汗ばむようになってきた…と思いきや、一転して手がかじかむような冬の寒さ。
三寒四温とはよく言ったものだ。
目まぐるしく変わる天気予報をチェックしながら、春の陽気になるという2月の最終日に合わせて、久しぶりの泊りがけ探検をすることにした。
目指すは福井県である。この計画に合わせてストリートビューでの机上探検をしたが、見つけ出した看板は2012年の画像ばかりだ。
10年以上も前の古い情報では、おそらく看板は残っていないのではないか。
それと、山間部の積雪の状態も気になる。福井県は日本海側のなかでも豪雪地帯で有名なエリアなのだ。
そんな心配をよそに、福井を目指すホーロー旅が始まった。
▼2月27日
名神高速から北陸道を乗り継ぎ、木之本インターで下車。青空に映える伊吹山はすっぽりと雪の帽子を被っているが、平地には雪はまったくない。
目指すポイントはストビューで見つけた金鳥看板が貼られた商店と、そこから更に山奥に入った小さな集落にある千代田ミシンの看板。
画像を念入りに確認すると、千代田ミシンはシンプルな短冊タイプで、しかも初見モノである。残っていればいいが…そんな期待を胸にクルマを走らせる。
金鳥はビューの画像通りに廃商店の壁に貼られていた。 上々の滑り出しである。
しかし、ことはそんなにうまく運ばない。
橋のたもとにクルマを止めて、はやる気持ちを抑えながら集落に続く狭い坂道を足早に登る。
目的の千代田ミシンが貼られていた民家の外壁はすっかりリフォームされ、看板の痕跡はどこにもなかった。
さすがに2012年の情報では仕方がないか…もっと早くストビューの情報を駆使していれば、カメラに収めることができたと思うと残念である。
私はこれまでも地図アプリを積極的に活用してきたわけでなく、どちらかというと“感”に任せて看板を撮影してきた。
これはと思うロケーションの小さな集落の路地をやみくもに歩いたり、それこそ行き当たりばったりでハンドルを握り、心細くなるような狭い脇道に突入しては、看板との偶然の出会いを楽しんできた。
ホーロー探検を始めた2000年代初めはそんなやり方でも看板を見つけることができた。しかし、今は違う。
一日走っても、歩いても、絶滅危惧種のホーロー看板はそうやすやすと見つからない。
どこに雲隠れし、どこに消えたのか。すでに時遅しかもしれないが、遅ればせながら、私のホーロー探検のスタイルを変える時がきたと思う。
“ストリートビュー積極活用宣言”である(笑)。
…というわけで、今回はストビューで見つけた情報を強い味方にして、木之本から国道8号線を北上し、敦賀に向かっている。
初日に若狭を中心とした嶺南エリア、2日目は嶺北エリアを回る福井をたっぷり楽しむ旅だ。
敦賀からJR小浜線に沿って並走する国道27号線周辺に散らばる集落は、かつては看板街道というくらいホーロー看板の密度が濃いエリアだった。これまで撮影した看板も訪ねていくが、ストビューでチェックした看板も含め、その多くがすでに消えていた。
残念だったのは、JR十村駅前にある看板屋敷。初めて訪れた2005年にはニコホン綿とキンチョール、広貫堂の組看板が揃ったインパクトがある屋敷だったが、あれから18年が経ち、「貫」の一文字のみが残る哀れな姿になっていた。
更にこのエリアでは、商店の壁にあった「三馬ゴム靴」や「ノシカネ醤油」、電柱に貼られていた「清酒加茂榮」や「かぜにピラニン」が2枚貼られた屋敷など、すべてが消えていた。
時代の流れとはいえ、この現実は寂しく思う。
そんな状況の中でも、この日は新たな出会いも多くあった。
うねるように背後の山に向かって続いていく路地の先に、小さな集落にある板壁の蔵にセミのように貼りついたクスリの看板や、久しぶりの邂逅となったオロナイン軟膏。
もちろんストビューの机上調査で事前に見つけていたものだが、こうして看板を目の前にすると素直に嬉しい。
なかでもクライマックスは、「かぜにピラニン」と「山火防止」の看板が2枚づつ貼られた古びた小屋。
春まだ浅い、淡い日差しに輝く赤い看板を見たとき、思わず心の中で(バンザイ)を叫んだ。
時間が止まったような、まさしく昭和30年代の風景がそこにあった。こんな風景に出会いたくて、ホーローの旅を続けてきたのだ。
一枚の看板で一喜一憂する。
心の躍動はいまだ醒めず。
いやはや、看板探しの旅はまだまだ止められそうにない。(つづく)
(2023.3.2記)
※画像上/小浜酒造の「清酒わかさ富士」の看板が貼られた土蔵。遠くには雪を被った若狭の山々が見えた
※画像中/小さな集落の路地の奥にもホーロー看板の姿があった
※画像下/若狭高浜の旧街道を歩く。歴史を感じる町並みが1㎞以上に渡って続く
※宿泊/「東横イン敦賀駅前」 朝食付き5440円。ホテルの前にはスーパーのアルプラザがあり、飲食店も多い。政府の旅行支援で2000円のクーポンが貰えた ☆☆☆☆★