琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート391 春を待つ、福井ホーロー旅 後編

2023.2.28
福井県越前市~池田町~大野市~勝山市~永平寺町~福井市~鯖江市


探検レポート391

▼2月28日
久しぶりの長距離探検に疲れが出たのか、倒れるように寝入り、朝を迎えた。
敦賀インターから北陸道に乗り、今庄に入ると雪の世界となった。ここから雪に覆われた風景のなか、看板を探して北上していく。
ポカポカ陽気で春めいていた若狭から、一転して冬に逆戻りである。 いかに豪雪地帯といえ、福井県は広く、春の訪れはまだ遠い。
足羽川とJR越美北線に並走する国道を離れ、小さな集落に向かう凍った脇道に入る。事前にストビューでチェックしていた、村の氏神様のような小さな神社の前に立った。
10年前のストビューの画像には神社入口の脇にある小屋の柱にレアなクスリの看板が写っていたが、そこにはすでに建物はなく、更地になっていた。
どんなクスリだろうか、初見モノだろうか…と、期待を膨らませながらここまで雪道を押して走ってきただけに、意気消沈である。
残っていて欲しいとの願いは叶わなかった。残念だが、仕方がない。
福井県は全国的に見てもクスリの看板が多く貼られ、今でも少なからず残っている県だと思う。
昨日も8枚を見つけているが、いずれも人目に触れないような小さな集落の、土蔵や倉庫といった目立たない建物に貼られていた。
多くの人に周知するという宣伝物であるホーロー看板は、これでは広告としての意味がなさないようにも思えるが、そうしたロケーションだからこそ、今もしぶとく生き残ってきたのだろう。
かつて、富山や奈良からクスリの行商で、信頼関係を築きながら一軒一軒つぶさに家々を回った「売薬さん」たちが、販路を拡大するために、テリトリーを主張する目印のように貼っていったのではないかと想像もするが、今となっては分からない。
遠い昔の思い出だが、柔和な表情の売薬さんから紙風船やベーゴマを貰ったことが懐かしい。

探検レポート391

雪を被った荒島岳や大日岳の主稜線が雄大に迫る中、ハンドルを握る。
スタットレスをきしませながら、大野市から勝山市へと山間の集落を回り、過去に撮影した看板商店にも再訪し、カメラを向けた。
2階の壁面にビールや地酒の看板がずらりと並んだ18年ぶりの再会となった商店は、今も健在で異彩を放っていた。
しかし、帰宅してから当時の画像と見比べると、牛乳石鹸や醤油の看板が消失しているのに気づいた。
店はすでに営業をしていないようなので、それを差し引いても貴重な看板商店だと思うが、レアな看板から順に消えていくのは残念である。
正午が近づき、途中で見つけたスーパーで昼食を調達。宿泊したホテルで貰った旅行支援の【ふく旅アプリ】の2000円クーポンを使い、特上のにぎり寿司を購入し、駐車場の片隅でパクつく。
さすがに福井だ。スーパーの寿司でもその美味しさは侮れない。
しかし、それで気をよくしてばかりではいられない。花粉にやられたのか、目がしょぼしょぼで、霞んで仕方がない。何度もクルマを止めて、目薬を差し、ティシュで鼻をかんでのドライブとなった。
道路事情が悪く何度も迂回させられ、永平寺町から雪が消えた福井市内に入ると、ホーロー探検は最終戦の酒蔵巡りとなった。
そのうちの一軒は、投稿者のとらのしっぽさんからいただいた情報で、蔵の中に看板があることを掴んでいたが、入口から声をかけても返答がなく、留守のようであった。さすがに断りもなく入るわけにもいかず、ここは諦めることに。
更に、続いて訪ねた酒蔵では、入口のドアに「事前連絡なしのお客はお断り」の貼り紙があり、ブラインドが下げられていた。これではどうにもならぬ。
この蔵にはかつて入口に2枚の吊り看板が貼られていた画像をチェックしていたので、その所在が気になっており確かめたかったのだ。
酒蔵めぐりは空振り続きだったが、「七ッ星」を造る井波酒造では、事務所の入口横に掲げられた看板にスマホを向けていると、ドアから出てきた従業員と鉢合わせ。
すかさず撮影許可の断りを入れると、「どうぞ、どうぞ、好きなだけ撮って」というありがたい返答。
こんなちょっとしたやりとりでも、心が和んだ。

探検レポート391

探検2日目は、ひたすらハンドルを握って300㎞近く走る長丁場となったが、ずっと以前から気になっていたクスリの看板も撮影することができた。
「ネツタイ」と「慈光散」がずらりと貼られた小屋の存在を知ったのは5~6年前で、それ以来いつかは行かなければと思っていた。
その後、福井の山里の風景を紹介する写真ブログで紹介されたこともあり、このままでは消失の憂き目に遭うのではないかとハラハラしていた。
小屋の前に立ち、ずらりと並んだ看板を見て、長年の宿題がようやく終わり、肩の荷が下りたことを感じた。
自宅を出て二日間で800㎞を走った福井の旅は、消失や空振りも多かったが、看板探しにどっぷりと浸かり、何よりも思いっきり楽しむことができたように思う。
行き当たりばったりで、それこそ未知の世界を覗く探検のように看板を探し回っていた、一昔前のアナログのスタイルにはまだ未練はあるが、 これからは、SNSや地図アプリを駆使しての新たなスタイルに変えるつもりだ。
今回の探検で撮影した看板たちには、偶然の出会いはほとんどなかった。
というか、見つけ出せなかったともいうべきか。
ちょっとばかし寂しいが、そろそろ、探検隊のネーミングも返上しなければならないかもしれない。(おわり)
(2023.3.2記)
※画像上/雪原を縫うように池田町から大野市に向かう。眼前には雪化粧した大日岳の稜線が迫ってきた
※画像中/九頭竜川から見た風景。勝山市
※画像下/倒壊した小屋には金鳥とオロナイン軟膏の姿が。よくぞ盗難に遭わず残っていたと思う。



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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