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ホーローの旅

レポート392 四国遍路ホーロー旅 早春の章

2023.3.7-21
徳島県上坂町~吉野川市~徳島市~小松島市町~阿南市~勝浦町~美波町~高知県室戸市~奈半利町~安芸市


探検レポート392

「なにやかで 歩ける遍路の 身の上感謝」
2023年早春。予てから計画していた四国遍路の旅に出ることにした。
白衣を着て、“同行二人”と刻まれた金剛杖を持ち、ひたすら霊場を回る巡礼の旅である。
仏心もない私が、歩いて四国遍路にチャレンジしようと思ったのは、他でもない。
2020~22年にかけて日本列島を徒歩で縦断し、その勢いで旧中山道、旧東海道を踏破してきた。
歩き旅のキャリアを重ねるうちに、いつしか、四国をお遍路で、1200㎞踏破するという目標が膨らんできた。
国内における歩き旅のグランドスラムとして、四国遍路はどうしても達成したい大いなる目標であった。
…とここまでは、遍路という巡礼の旅を、これまでの歩き旅の延長戦としてしか捉えていなかった。
しかし、遍路は単なるスタンプラリーでは毛頭なく、1000年も続くいにしえの遍路道を雑念を振り払うように一心に歩く旅であった。
その気持ちは、 「へんろとは 歩くこと也 感謝と行」 …この一言に尽きる。
八十八ヶ所の霊場を納経しながら歩いた旅は、これまでのアウトドア感覚の歩き旅とは明らかに一線を画し、まさに心身ともに浄化していくような不思議な体験となった。

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四国1200㎞を一気に歩く“通し打ち”ができるほどの気力体力もない私のお遍路は、数回に分けて歩く“区切り打ち”となった。
今回はその【春の章】である。
雑念を振り払って一心に歩く…と言っておきながら、そう簡単には雑念や煩悩を消し去ることはできない。
好奇心はそれを上回り、永遠に続くとも思われる遍路道を歩きながら、私は様々なものにスマホのカメラを向けてきた。
古い民家や路傍にたたずむ石仏、草花や田園風景、マンホールの蓋や牛乳箱。 そして、ホーロー看板。
長年ライフワークとしているホーロー看板については、遍路道を歩いていてもその存在を目で追っていた。
雑念この上もないが、ホーロー看板を探すという行為は、無意識のうちに私の行動に組み込まれ、体や脳に刷り込まれているから仕方がない。
霊場から霊場へと、ただ黙々と歩くだけという、ともすれば単調になりがちなお遍路の旅も、ホーロー看板との出会いがあって、また一段と楽しい旅にしてくれたと思っている。
2週間にわたって徳島県と高知県を歩いた今回の遍路旅では、わずかであるがホーロー看板が私の前に現れてくれた。
遍路道は、ストリートビューで確認できないような民家が詰まる狭い路地裏や限界集落、山林や廃校の脇をすり抜けたりして続いている。
民家の庭先を抜けて回りこんだ板壁の蔵に、看板が貼りついていたこともあった。

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津波警戒地域の漁港にある小さな集落。 鍵型に曲がる狭い遍路道を歩いた先に見つけた廃商店の板壁には、鮮やかな黄色い地酒の看板が貼られていた。
急登にあえぎ、時雨が降る中を白い息を殺して登った霊場の山門に貼られていた「山火注意」の看板。
特産品のぼんたんを並べる無人販売所で談笑していた、おばあちゃんたちの背後のトタン壁にあった塩の看板。
野宿の寝場所を求めて歩いた先に見つけた遍路小屋。
振り返ると、遠くに見える民家の壁に金鳥の看板があった。
そのどれもが、私が見つけ出すわけでなく、向こうから目に飛び込んできてくれた。
何の情報もないまま、看板との偶然の出会いを楽しんだ2週間であった。
(2023.3.25記)
※画像上/田んぼに水が張られたばかりの田園風景に続く遍路道を歩く。高知県香南市。3月19日
※画像中/第12番札所焼山寺から長い坂道を下ると、限界集落に出た。まさに天空の村がそこにあった。徳島県吉野川市。3月9日
※画像下/室戸岬に向かう集落から、遍路道は峠を越えて延びていた。高知県東洋町。3月17日



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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