ホーローの旅
レポート395 炎天下の東海道本線町歩き
2023.9.13
愛知県豊橋市~豊川市~蒲郡市
暑い、暑いとぼやきながら、何もせずにうだうだと過ごすうちに9月も半ばを過ぎた。
四国遍路のついでに行ったホーロー探検以来、重い腰を上げることもなく、暇を見てはストリートビューの机上探検やネット検索でお茶を濁していた。
近場とはいえ愛知県内の看板にはまだまだ未撮影の物件がいくつかある。
いつかは行こうとずっと気になっていた看板屋敷もあり、“思い立ったら吉日”のごとく、モチベーションが落ちないうちに町歩きをすることにした。
目指すは豊橋から蒲郡のJR東海道本線沿線の町である。
最近はクルマの運転も億劫になっているので、電車を乗り継いでの探検となった。
自宅から中央本線、東海道本線と乗り継ぎ、豊橋駅で下車。ここから第三セクターの豊橋鉄道に乗り替え、ホームだけポツンとある無人駅で下りた。
いきなりの炎天下にたじろぐが、首にタオルを巻いたスタイルで歩き出す。
小さな集落の路地を抜けるとお目当ての町名看板があった。 事前にストビューでチェックしていたが、これまで何度も現地での消失の憂き目に遭ってきたので、残っていたことに胸をなでおろした。
すぐに踵を返して、30分に一本のダイヤの上り電車に乗って再び豊橋駅に戻り、今度はJR東海道本線の岐阜行きの普通電車に乗り替える。
何ともあわただしいが今回は電車と徒歩の旅なので、時刻表(もちろんネットの乗換案内)と首っ引きである。
ほとんど乗客もいない車両に座り、のんびりと揺られて無人駅で下車。
この辺りには旧東海道も通っており昨年も歩いているが、お目当ての看板は東海道から外れたところにあった。
すでに閉店している酒屋には錆て見る影もなくなったオロナミンCと地酒看板の『楽自慢』が貼られていた。
『楽自慢』は1920年(大正9)創業の岐阜県各務原市の㈱林本店(旧・征空酒造)の銘柄。
岐阜県内で1枚発見しているが、遠く離れたこの場所で出会うことができるとは思わなかった。 往時の販路が広かったことを物語っているようだ。
酒屋からしばらく行くと、マルエイ完全飼料の巨大な看板を掲げた肥料店があった。
ストビューで事前にチェックしていたが、店先に立ってみると、店内にもずらりと肥料看板が並んでいることに気づいた。 しかし、店内に入って声をかける勇気がなく、人がいないのを確認してガラス越しにスマホを向けるにとどまった。
もともとは根が小心者なのである。
看板探しを始めた20年前ならいざしらず、不審者のような奇異な目で見られ、これまで何度か断られた経験がトラウマになってしまい、ここ数年は看板を撮らせて欲しいと面と向かって申し入れることができなくなってしまった。
気温はぐんぐん上がり、とめどなく流れる汗を拭きながら駅に戻り、再び普通電車の客となった。
コロナが5類に移行したからなのか、ざっと見たところ乗客の半数はマスクをしていない。 しかし、巷では爆発的に感染者が増えているのだ。
つい最近も名古屋に住む老父と妹が感染してしまい、父は病院に救急搬送されててんやわんやだった。
それもあってか、私は人と接触するのをできるだけ避け、人ごみに入るときには必ずマスクをするようにしている。 コロナ禍はまだまだ終わっていないのだ。
蒲郡に入った駅で下車し、じりじりと肌を焼く熱射の中、看板屋敷に向かう。
ここはずっと以前から存在を知っていたが、訪ねることもないまま時を経てしまった。
屋敷には『月印毛布』と落下しそうな『ロックペイント』があったが、屋敷を回り込んでみると、雑草に覆われた2階の軒下には『キンヨー』と1階の死角になった物置部分には組看板の『加美乃素』の『素』の看板が貼られているのを確認した。
往時には『サクラ日本学生服』の看板もあったという情報もあり、インパクトがある看板屋敷だったと思われる。
かつては東海道本線沿いに多くあった看板屋敷も現在ではほとんど残っていない。
住む人もなく、朽ちるに任せたままになってしまっているが、いつまでも残ってほしいと思う。
午後を回り、最後の目的地の蒲郡を歩く。
蒲郡駅北口を出ると、ロータリーの広さと対照的に閑散とした風景があった。 人の姿もなく、ラーメン屋の一軒を除いて、コンビニや飲食店もない。
いつ頃からだろうか、それなりに人口を抱えた地方都市でも駅前は年々寂しくなってきているのを感じている。
さながら廃墟のような【閉店】の貼り紙がベタベタと貼られた駅前の煤けた雑居ビルを見ながら本町へ向かう。
古い薬局やシャッターが下りた酒屋、居酒屋もあって昔の賑わいを想像できたが、路地に迷い込むと赤茶けた古い民家が軒を並べる一角もあり、 炎天下の暑さを忘れ、夢中になって小一時間あてもなくぶらぶら歩いた。
お目当てのホーロー看板を貼った肥料屋を見つけたことを除いて、これといった収穫もないまま蒲郡でのホーロー探検を終えたが、運動不足の足慣らしにはちょうど良いトレーニングとなった。
涼しくなったら、旧街道の歩き旅で看板探しを楽しもうと思う。
兎にも角にもこの残暑、願わくは、早く逝って欲しい。
(2023.9.23記)
※画像上/JR豊橋駅から豊橋鉄道に乗り換える。平日とあって乗客はまばらだった
※画像中/豊川市の町並みを歩く。近くには旧東海道が通っているが、目抜き通りとはいえ人の姿もなく、町は閑散としていた
※画像中/民家を覆うように垂れていた雑草。調べてみると『フウセンカズラ』という観賞用にもなる帰化植物のようだ
※画像中/炎天下の蒲郡の古い町並みを歩く
※画像下/同上。狭い路地に迷い込むと赤茶けた民家が寄り添うように軒を並べていた