琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート406 台風一過の三浦半島へ

2024.9.3-5
東京都練馬区~台東区~神奈川県横浜市~横須賀市~三浦市


探検レポート406

日本列島に二週間にわたって居座った台風10号が温帯低気圧になるのを待って、台風一過の神奈川に向かうことにした。
アクセスはいつものように高速バスで新宿へ。
私が住む町から早朝の便に乗れば、昼頃に到着するという優れものだ。
同じ姿勢で腰が痛くなるのを我慢すれば、のんびりと、ゆったりと、文庫本なんぞ開きながら時間を忘れることができるのも気に入っている。
9月3日、バスは定刻通りの12時18分に新宿に着いた。
バスターミナルから道路を隔てた新宿駅に向かって外に出ると、眩しいくらいの夏の日差しが全身を突きさすように降り注いだ。
攻撃的なこの暑さに、たじろぐ。まだまだ夏は終わりそうもない。というか、台風が去ったことで太平洋高気圧が更に勢いを増したようにも思えた。
相変わらず人でごった返す新宿駅から山手線で池袋を経由し、練馬駅へ。
【練馬区桜台5丁目40】の町名看板は、練馬銀座から弁天通を歩いた先の閑静な住宅街にあった。
ブロック塀に忘れられたようにポツンと貼られた看板は何だか寂しくもあるが、風雨に耐え、この時代まで残っていことが嬉しい。
東京23区の町名看板は坂道を転がるように減少の一途を辿っているだけに、今では貴重な絶滅危惧種といってもいいだろう。
まずは幸先のいいスタートが切れたので、これに気をよくして北区の物件に向かう。

探検レポート406

池袋駅から都電荒川線に乗り換えて滝野川を目指す。
狙いの看板は「キンチョール」の短冊タイプで、これはかなりのレアものである。おそらく国内で残っているのはここだけかもしれない。それほどの逸品だ。
地図アプリを表示したスマホを片手に、投稿者のとらのしっぽさんの情報をもとに訪ねていくが、時すでに遅かった。
看板が貼られていた薬局の建物はすでに跡形もなく、そこにはハイセンスな新築の家が建っていた。
残念だが仕方がない。こうしたことはこれまでも数限りなく経験している。ここはすっぱりと諦めて、気を取り直して上野駅近くの物件に移動する。
JR御徒町駅からのんびりと歩き、閑静な練馬とは対照的な町工場や小さな商店、飲み屋が雑多に並んだいかにも下町然とした町を行く。
大きなスーツケースをガラガラと引きずる中華系の老若男女合わせて10人ほどのツーリストの集団が前方を歩いている。
静かな町に場違いなほどやかましく大きな声で喋りながら、とにかく騒々しいったらない。マナーもない国民性を今更指摘してもしょうがないが、一方でこれを見て、彼らがもつ底知れぬパワーを感じている自分としては複雑な心境である。
彼らから少し距離を置いて、ストリートビューで事前にチェックした物件に向かう。
【台東区鳥越1-5】の町名看板は製缶工場の隣の民家に貼られている筈だが、現地に到着すると、思わず「あちゃ~」の独り言。
なんと、民家は解体の真っ最中だった。ここも時すでに遅しだった。
新宿を出てからのべ10㎞ほど歩いたが、結果は1勝2敗で終わることになった。
新たな情報が出ない限り、しばらくは都内の看板探しも疎遠になりそうだが、これも仕方がない。 気持ちを切り替えて、明日からの神奈川探検を頑張ることにしよう。

探検レポート406

翌9月4日は、横浜市内のホテルを出て三浦半島に向かった
地下鉄→京急本線→バスのアクセスは乗換も面倒だし、時間もかかる。その上、通勤通学時間と重なったためかなりの混雑だった。
三浦半島の先端に町名看板が貼られていなければ、おそらく訪れることもない土地だが、そこは看板探検隊の性か。 看板があるところどこへだって行くのだ。
三崎口駅から乗ったバスを降りると、潮の香りが鼻孔をくすぐった。そこには目が覚めるような真っ青な海が広がっていた。
民家が軒を並べる坂道となった狭い路地を、息を切らして上がっていく。
車窓から見ていて感じたが、横須賀から三浦のエリアは山の上に家が建っているというイメージ。住人たちの毎日の坂の上り下りを想像しただけで頭が下がる。
予定通り坂道にある2枚の町名看板を撮影し、今度は下り坂となった路地を下りていく。 すでに太陽は容赦なく照りつけ、滴る汗がハンカチを乾く間もなく濡らした。
探検二日目は三浦半島から横須賀市内を歩き、6枚の町名看板とオロナミンCやアース渦巻が貼られた商店を撮影した。
なかでも「レコード石鹸」はかなりの貴重品。錆びてボロボロになりながらも、埃を被った柱にしがみつくように揺れていた。

探検レポート406

三日目の9月5日も暑さは衰えず、それこそ殺人的な日差しの中での探検となった。
暑さに参っていたのだろうか、どん臭いことに昨日の横須賀の探検でうっかり撮り忘れた看板があった。
どうしても諦めきれないので、連泊した横浜市内のホテルを早朝にチェックアウトし、昨日と同じように地下鉄と京急を乗り継いで横須賀中央駅で下車した。
炎天下の中を2枚の町名看板に向い、無事ゲットすることができた。
最後は、横須賀から往路を戻り、ペットボトルの水を浴びるように飲みながら横浜市内の町名看板2枚を撮影し、新横浜から新幹線に乗車し帰宅した。
好天過ぎるくらいの暑さのなか、あわただしく動いた三日間だったが、これまで足が向いたこともなかった三浦半島の看板を撮影することができたのは収穫となった。
今年になってからの、いや、ここ数年のホーロー探検は町名看板を探す旅が中心になっていることは否めないが、まぁ、これも時代の流れだろうか。ターゲットの看板が激減している背景はどうにもならない。
これは予言でも何でもないが、おそらくここ数年のうちに、自然のままに残るホーロー看板の姿は消え去ることだろう。
往生際が悪いのは百も承知だが、もう少しだけ、看板の姿を追っかけていければと思う。
(2024.10.2記)

探検レポート406

※画像上/京急汐入駅から緩やかに続く子之神通りの坂道を上った。9月4日、横須賀市
※画像中/狭い路地裏には昭和の名残りを感じる雰囲気があった。9月3日、東京都台東区鳥越
※画像中/三浦一族発祥の地といわれる横須賀市衣笠。駅前には賑やかな商店街があった。9月3日
※画像中/温暖な気候の三浦半島。民家を覆うチョウセンアサガオ。9月4日、三浦市
※画像下/路上で見つけた本の貸し出しポスト。こんなサービスもなかなかいい。9月3日、東京都練馬区
※宿泊/「横浜グランドサン」夕食朝食サービス付き1泊6000円。このプライスで食事付とはうれしい☆☆☆☆★

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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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