ホーローの旅
レポート49 東北遠征① 河童の里へ 岩手県編1
2005.8.10
岩手県奥州市~遠野市
北陸道新潟ジャンクションから福島県を目指し磐越道に入ると、長く尾を引いた夜が白々と明け始めた。
副隊長のあんもんと運転を交代しながら夜通し走ってきたが、睡魔との闘いはすでに勝負がついていた。我慢の限界はもはやここまでで、早朝4時、県境を越えてすぐのサービスエリアで僕らは死んだように眠った。
しかし、この仮眠があだとなった。東北道に入ったばかりの二本松付近で事故渋滞に巻き込まれてしまったのだ。二本松~福島西インター間が通行止め、そして一般道に迂回を余儀なくされて三時間のロスを負うことになる。
二時間の仮眠さえしなければ、朝には岩手県に着いていたと思うと今更ながらに悔しい。 昼近くになってたどり着いた水沢で高速道路と別れを告げた。
岐阜県を出て14時間、ようやく5日間の琺瑯探検のスタートラインに立つことができた。
岩手県奥州市(旧水沢市)を訪れたのは去年に続いて二度目だ。ちょうど一年前、この町を玄関口にして、虎毛山塊という東北特有のぶなの原生林が息づく山に入った。岩魚を釣りながら焚き火の横でごろ寝を繰り返す源流の山旅は、仕事で疲れた心身をどっぷりと自然に同化させてくれたのだった。
あれから一年、今度は琺瑯看板を探すという180度違った目的で水沢を訪れている。果たして東北のお宝たちは僕らを歓迎してくれるだろうか。
最初のお宝は水沢の中心部から適当に入り込んだ路地にあった。「リスズミシン」…?これまでに一度も聞いたことがないブランド名。
そして次に見つけたのが火の用心の標語看板。よく見ると「風一」というくすりのロゴが。レアモノ看板の連続ゲットにこれから始まる遠征を大いに期待させてくれた。
当初は水沢から江刺、遠野を経由して葛巻までを予定していたが、事故渋滞のロスがそのまま響き、遠野市を初日のゴールに変更する。
最もそのままストレートに遠野を目指すわけではなく、そこは探検隊のいつものやり方、地図で小さな集落を見つけては寄り道を繰り返していく。旧字で書かれた塩看板や森永ミルクチョコレート、昆ちゃんが正面を向いた昭和47年製造オロCなど、遠野までのレアモノヒットのアプローチに、うれしさが頬の筋肉をゆるみっぱなしにしてくれる。
そして、夕刻が近づきたどり着いた遠野市。目抜き通りからすぐの古びた酒屋で僕らは感動の渦に巻き込まれた。なんと店内のものを入れると13枚ものお宝が貼られた国宝級の店。昔ながらの酒屋らしく、店の中には酒飲みスペースが作られて、仕事帰りのおじさんたちがスルメを肴に杯を傾けている。
「看板撮らせて欲しいんですが…」 「どんぞ、どんぞ」 店のおぱさんも慣れたもので、聞けば、しょっちゅう旅行者が訪ねてきては譲って欲しいと言われるという。遠野では有名な看板商店なのだ。
すでに薄暗くなりかけた頃、柳田國男『遠野物語』で有名な「河童淵」(写真)の駐車場にテントを張った。
東北遠征1日目の夜は、広く高い空に満天の星が輝き、「ゲコ、ゲッコ、ゲッ…」とやかましいほどの河童ならぬ蛙の大合唱を聞きながら、のんびりと更けていった。(つづく)
(2005.8.25記)