琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート65 根尾谷から若狭へ、傷心の再訪

2005.11.13
岐阜県本巣市~揖斐川町~滋賀県長浜市~福井県敦賀市~若狭町


探検レポート65

副隊長あんもんとの久しぶりの探険だ。東北遠征以来、夏バテが長引いていた彼だが、すっかり体調のほうは良くなったみたいだ。
前夜は所属山岳会のきのこ狩りイベントがあり、根尾村のロッジで彼と合流し、酒を酌み交わした。
今回目指したコースは、根尾村から谷汲(現・揖斐川町)、揖斐川町を経由して、国道303号線で旧藤橋村、旧坂内村(今は揖斐川町に併合)から滋賀県に抜け、更に福井県に入るという長旅だ。
大きな目的は若狭エリアの再訪だが、当サイトの掲示板に、投稿者の方から「三方町十村駅前の看板屋敷の看板が消失していた」という投稿があり、その真偽と琺瑯狩りの可能性を確認することにあった。
揖斐川流域に発展した根尾村は、岐阜県でも最奥にある村だ。のどかな山間に集落が点在するが、琺瑯看板はこんな山奥にもしっかりと生きていた。酒や薬、肥料といった村人の生活に根付いている看板たちがさりげなく貼られているのをみると、まだまだ日本も捨てたもんじゃないな、と単純に思うのである。
旧谷汲村は以前にも訪れているが(第20回探険レポート)、あんもんがいると、探索力がパワーアップされたようで、NECや太田胃散、スキン(もちろん、薬である・笑)のバージョン違いを見つけることができた。
この日は「揖斐川マラソン」という町あげてのビックイベントと重なったこともあり、午前10時30分から国道303号線が通行止めとなる。
それまでに藤橋を抜けていなければならず、とにかく先を急ぐ。といっても、カミさんへのお土産に、物産センターに寄って今は盛りのこの地方の名産である「富有柿」や、白菜、里芋を買うのは忘れない(笑)。
揖斐川町も以前に探検をしているが、やはり見落としがあったようで、今回は急いでいる中にも、薬の看板を5枚貼り付けた屋敷を発見、しかもその内の3枚は初モノというラッキーな遭遇だった。

探検レポート65

クルマは岐阜県境を越え、滋賀県木之本町に入った。土蔵岳の南西に広がる斜面にへばりつくようにある集落を丹念にフォローしながら、木之本ICに出だ。
敦賀までは北陸道を利用し、市内探険を行うが、敦賀市はやたらと道幅が広く、しかも古い建物が大変少ない。僕らの探索能力が鈍っているのか、一時間以上縦横無尽に走り回ったが、ほとんど琺瑯看板の姿を見つけることができなかった。
いよいよ若狭に入る。美浜町から三方町へは国道と平行して通る旧道を走るが、“何か変”なのである。何かが足らない。しばらくはそれが分からなかったが、車中でのあんもんとの会話で、次々に出てきた。「大阪セメントなかったよなぁ」「そういえば、水原弘もいなかったよなぁ」「薬の看板どこいった?」。
…そして、十村駅前の看板屋敷を見て、愕然とした。確かにあった「ニコホン綿」と「キンチョール」がなくなっていた。
3月(第19回探険レポート)に訪れてからまだまだ数ヶ月しか経っていないというのに、2枚の看板がなくなっている。自然に欠落したのか、コレクターが買い取っているのか、それとも“琺瑯狩り”の仕業なのか…。
真偽が分からないまま、次のポイントに急ぐ。ここで私たちの確信は決定的となった。琺瑯狩りにやられたのは間違いがなかった。手の届く範囲に貼られた看板が根こそぎなくなっている。
私たちは、つい数ヶ月前までにそこにあったはずの「崑ちゃんのオロC」や「三菱鉛筆」「江戸むらさき」「ニッサン石鹸」の看板が剥がされた商店(看板商店・福井県編参照)を呆然と見つめていた。
今回確認できた消失した看板たちは、第19回探険レポートに「消失」の記載をした。この街道にあった10数枚の看板が消失している事実は、コレクターや業者の買取としては考え難い。所有者も分からない廃屋や納屋に付いていた看板もたくさんあったからだ。
おそらく琺瑯狩りに遭ったとことは間違いなさそうだが、どうやら私のレポートがそれを助長したこともありうる
。岐阜県付知街道にしかり、そして若狭、これはほんの一部かもしれないが…。 特定の地名、場所を記載しなくてもお宝の“ありか”は分かってしまう。
若狭のお宝たちが、長年住みなれた地を離れて、オークションにかけられ、骨董屋に売られ、そして居酒屋や食堂の店頭への流浪の旅に出て行くのは残念でならないが、これが琺瑯看板たちの行く末だとしたら、もはや割り切るしかないのだろうか。
一時は、サイトの運営の是非や、情報を最小限にすること(発見場所は県名のみ記載)も考えた。
しかし、大げさかもしれないが、暗躍する琺瑯狩りという犯罪実態を微力ながらアナウンスすることも、このサイトの役目という気がしてきた。
いろいろと考えさせられた今回の探険だったが、改めて、残り少なくなりつつある琺瑯看板たちの「今の姿」を記録し、「生きた証」を後世に伝えていくのがこのサイトの役目であると、再認識した旅でもあった。
(2005.11.25記)
※画像上/看板が剥がされてしまった屋敷



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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