琺瑯看板探検隊が行く

ホーローの旅

レポート72 幻のグリコ発見! ごちゃまぜミニ探検4

2006.1.25-27
静岡県浜松市、岐阜県岐阜市~各務原市


探検レポート72

最近では出張に行っても道草ができなくなった。
いつもなら地方都市の駅前あたりで、電車の待ち時間を利用して、お宝を探しながらぶらぶら歩く時間を計画的に作り出してきたが、このところはスケジュールがびっしりで、デジカメを持参しても、ついぞカバンから出すことが少なくなった。…馬車馬のごとく働けということなのだろうか。あぁ、しがないサラリーマン(悲)。
浜松の酒看板「優良清酒 長誉」は開発が進んでいる駅前近くの酒屋の産。昨年の夏ごろに偶然見つけたものだが、なかなか撮りに行くチャンスがなかった。今や浜松のシンボルとなりつつあるアクトシティホテルや名鉄浜松ホテルが並ぶ幹線道路沿いにあるにもかかわらず、隠れたように目立たない酒屋にひっそり貼られた年代モノの看板は、どれだけの人が気づくだろうか。
岐阜市の水原弘のハイアースはJRの車窓からいつも見ていた看板だ。一年ほど前から気づいていたが、岐阜駅から歩いて行くには遠く、いつかは撮らなければと思っていた。そんな中、有給を取り岐阜市内に鍼治療で行ったついでに、ようやく撮影することができた。
水原弘をゲットして、各務原方面に向かった。古びた神社の鳥居をくぐる旧道の手前の辻に、東芝テレビの大看板が貼られた木造家屋があった。近づいてよく見ると、何やら薬の文字が入った看板が隣にあり、「富山広貫堂」と「退鬼散ゴールド」のロゴ。保存状態は悪いが、初物の薬看板だった。
さて、レポートの最後にトピックスを記しておきたい。場所は書けないが、琺瑯探検隊始まって以来の大発見をした。
とある町の乾物屋でグリコの戦前バージョンを見つけたのだ。申し訳程度に乾物やカレー、小麦粉を並べたこの店は、どこからどう見ても昭和30年代そのままだ。
実は、この店は以前から気になっており、看板の姿は見えないが、「何かがある」という第六感が働くような独特な雰囲気があったのだ。 (いつかは、覗かないといかんな)。…そんな気持ちもあり、店番をしていたおばあさんに思いきって声をかけた。
「この店はずいぶん古いけど、いつから商売してるんですか?」
「おじいさんの代から、三代目だわぁ」
「すると、戦前ですか」
「なにいゃ~す、もっと、もっと古いよ。この町で一番古いでかんわ」
「僕は古い看板とかの写真を撮っているんですが、そういうのはありますか?」
…私の問いに対して、「そういえば、こんなのあるねぇ」といいながら、おばあさんは、陳列棚の下から埃にまみれた看板を引っ張り出してくれた。
「…」 僕は目が点になった。それは紛れもなく、あのグリコだったからだ。しかも、幻といわれる戦前モノだ。看板を持つ震える手で、僕はおばあさんに尋ねた。
「これ、譲ってもらえないですか?」 僕には看板を集めるという趣味はない。しかし、このグリコを見てしまったら、単純に「欲しい」という気持ちになってしまった。
「おじいさんが、人に譲ったらあかん言っとるからだめだわぁ」
おばあさんは、僕の手から埃にまみれたグリコを無造作に奪い、元気よく言った。
僕はその答えを聞いて、あっさりとあきらめるしかなかった(しかし、名刺はしっかり渡しておいたが・笑)。
そして、この看板の価値と大切に保存をして欲しいということを話して、それから延々1時間、おばあさんと世間話をして店を辞した。
写真を撮るとき、埃をきれいに拭いてあげたら、グリコおじさんの両手を広げたゴールインポーズが現れた
。私とってのホーローの旅は決してゴールインではないが、(この看板を譲ってもらえたら、看板探しをやめてもいいな)と、ふと思って苦笑いしている自分に気づいた。
(2006.2.5記)
※画像/平成の終焉と共に、この店は閉店した



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Profile

つちのこプロフィール
つちのこ
岐阜県在住。
歩き旅とB級グルメの食べ歩きが好きな定年オヤジです。 晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活に突入し、のんびりとした日々を送っています。
2020年には、少年のころからの夢だった、北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断。
旅の様子はブログ『つちのこ更新日記』で発信中です。


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